2017年度グッドデザイン賞を受賞したことを受けて、その報告を兼ねた会が2017年12月19日に催された。松之山温泉合同会社まんまのメンバー、デザイナー、地域の住民などが集い、前半に受賞報告、後半にパネルディスカッションが行われた。

受賞報告が終わり、後半のパネルディスカッションに登壇したのは、建築家の蘆田暢人さん。クリエイティブディレクターのフジノケンさん。小中一貫校・まつのやま学園から生徒会長の高橋千尋さんと、次期生徒会長の竹内堅生さん。地域女性代表として、佐藤美保子さん。旅館・凌雲閣の経営者で、松之山温泉合同会社まんまのメンバー島田怜さんの6名。

ディスカッションのテーマは「これからの松之山デザイン」。ルールはポジティブシンキングであること。世代も立場も違う人たちが、前向きに意見を述べ、他者の発言に耳を傾け、ときに共鳴する。

前編はこちら。

 

みんなで考える松之山のデザイン
フジノケンさん

まずは、フジノケンさんによる松之山温泉のブランドデザインについての紹介からはじまった。松之山温泉景観整備に関わる中で、ブランドデザインの相談を受けたのが2016年秋のこと。フジノさんはブランドについて、「デザイナーなりが新しいものを生み出すというようなイメージを持たれるかもしれないが、そうではない」という。

「まず考えたのは、いままで松之山温泉でしてきた蓄積を、きちんと一度振り返って、そのことを集大成としてまとめるのがいいかな、ということ。みなさんと集まって、今までどんな取り組みをしてきたかを棚卸しする作業をした。」(フジノさん)

そうして出てきたのが、「持続可能な地域づくりに貢献する」「縁を未来につなぐ」「松之山ならではの過ごし方」などの、10の要素をまとめたブランドビジョン。

「これらの要素は、何か新しいことを私が考えたわけではなく、みなさんとのお話を集約していったら見えてきたこと。例えば、「縁を未来につなぐ」ということでいうと、これまで、大学やシェフの方などとの、ひとつひとつの縁をそこで終わらせないで、次にどうやって繋げようか、ということをずっと繰り返してきたこと。それが今のまんまに繋がってきたのだと思う。また、まさにこの場で、若い世代の人達も含めて松之山の未来を考える場があるということも、ブランドビジョンが実態化しているのかなと感じている。」(フジノさん)

みんなで考える松之山のデザイン
松之山温泉ブランドマーク

ブランドマークもみんなで話し合いながら一緒に作り上げた。

「みなさんと会話する中で、山あいにある隠れ里のような場所、という言葉が印象に残って、その感じを表現した。縁ということに関連して、波が響き合い共鳴しているようなイメージも込めている。タイプフェイスの松之山の「山」が旧字体を使っていて、中に人という字が隠れているが、これも最初のデザインでは、これほどはっきりしていなかった。話し合いの中で、もう少し広げたら人に見えるよね、という意見があって、なるほどそれはすごく松之山らしいな、ということで最終的にこのような形になった。」(フジノさん)

 

みんなで考える松之山のデザイン
蘆田暢人さん

フジノさんによるブランドデザインの紹介の後、蘆田暢人さんから再び景観デザインについての解説。地域住民にとって、ときに疎ましい存在でもある雪。どのようにデザインに反映させたのか。

「温泉街だと、行灯風な感じとか、繊細な感じとか、和っぽい感じとか、一般的にそういうイメージだと思うが、松之山温泉がそれらと同じような景観をつくってもどうかと。他のところでは見れないような、そんなまちになっていくべきではないかと考えた。」(蘆田さん)

ポイントとして考えたことは、「新しい技術を取り入れていくこと」だったという。

「雪国では、鉄筋コンクリートができたことで、急勾配の木造の屋根から、耐雪型フラットルーフの屋根になっていった。雪との戦いが、建物やまちをつくるうえで、すごく重要な要素になっていると感じる。新しい技術を取り入れて、生活をより良くしていくということ。それが雪国の近年の歴史なんじゃないか。」

2015年5月に完成した消雪施設建屋。屋根には融雪機能が付いている。

「屋根には融雪が入っているので、雪国の中でもかなり勾配がゆるい。そういった今までとちょっと違う技術を取り入れて、新しいかたちができていく。」(蘆田さん)

街路灯のコンセプトは雪を溜めないこと。とんがった雪切りを頭に付けて、鉛筆のような形状にした。

「街路灯のこういう形も、雪がこれだけある松之山でしか意味がない。こういった、ここにしかない形というのが、ひとつひとつできればいいんじゃないか。それが積み重なっていくと、松之山らしいまちができていくと思う。」(蘆田さん)

 

みんなで考える松之山のデザイン
高橋千尋さん

ブランドデザインと景観デザインの話を受けて、パネリストのみなさんが「松之山の印象」について順に発言していった。地域に暮らす住民として、地元松之山に対して、それぞれどんな印象を抱いているのか。

まずはじめに発言したのは、小中一貫校まつのやま学園の生徒会長・高橋千尋さんと次期生徒会長・竹内堅生さん。高橋さんは、松之山のことを「学校のようだ」と表現する。

「日々の中で変わってゆくまわりの風景や自然、また地域の方々から聞くお話は、学べることがたくさんある。松之山は天然の学び舎だと思う。普段の生活の中で、何気ないことこそが特別に見えてしまう。それが松之山の良さだと思っている。」(高橋さん)

みんなで考える松之山のデザイン
竹内堅生さん

また竹内さんは、住民の良い印象についてこう話した。

「お店や道で会ったりしても、気軽に楽しく話せる。また小中一貫になって、小学生とも触れ合う機会も多いが、みんな元気。松之山の人たちの良さは、暖かい心を持っていることと、元気があることだと思う。」(竹内さん)

みんなで考える松之山のデザイン
佐藤美保子さん

続いては、嫁いできて9年目になる佐藤美保子さん。それまで都市部でしか暮らしたことのなかったという佐藤さんは、松之山に来て戸惑ってしまったことがあった。

「今まではアパートの隣にどんな人が住んでいるのかもわからない、そんな生活が当たり前だった。松之山は地域全体が知り合い。今日は車があったねとか、昨日は電気が付いてなかったねとか、人と人との距離の近さに戸惑い、慣れるのになかなか時間がかかった。しかし距離が近いことで、例えば一人暮らしのお年寄りの家の異変に、すぐ気がつくことができたりする。みんなで寄り添って問題を解決する。地域全体が家族のよう。それが今は心の拠り所になっている。」(佐藤さん)

現在4人の子どもを持つ佐藤さんは、嫁いだ時からずっと抱いている思いがある。

「先ほどの生徒さんの言葉にもあったが、テレビの向こうにではなく、地域におられる近所のじいちゃんばあちゃんひとりひとりがすごい人で。神楽や太鼓を教えてくださったり、怒るときは怒るということをしっかりしてくださる先輩方が、地域に根付いている。子供達も、親の背中だけではなく、松之山地域全体の大人の背中を見て育っているな、と感じる。子育てをさせてもらう親としては本当にありがたい。」(佐藤さん)

みんなで考える松之山のデザイン
島田怜さん

凌雲閣の島田怜さんは、自身もメンバーとして加わっている「松之山温泉合同会社まんま」の活動について説明した。まんまができたのは2010年。着地型旅行商品や旅館で出す料理などを開発してきたという。最初まんまがはじめた「朝ごはんプロジェクト」は、新潟県の旅館組合のキャンペーンにまで発展するなど、独自の取り組みは成果をあげていたそうだが…。

「お客さんの声を聞くと、まだまだ松之山温泉というのは認知度が低いと感じることがある。このあいだも婿投げ墨塗り祭りの説明をさせていただいたら、それなら知ってる、テレビで見たことある、とおっしゃる。お祭りの存在は知っているが、松之山温泉でやっていたということはご存じなかった。そこで今度は蘆田さんやフジノさんのお力を借りて、ブランディングに取り組んでいる最中、というところだ。」(島田さん)

 

みんなで考える松之山のデザイン

話題は松之山の未来について。松之山の強みを活かすにはどうしたらよいか話し合われた。パネリスト全員が、それぞれの立場から意見していく。まずは蘆田さんが、まちづくりの側面から語る。

「建物やまちはもともと、現地の気候風土に合わせて作られていた。しかしコンクリートや鉄、ガラスなどの近代技術が世界中に普及して、世界の都市の風景は似たようなものになってしまっている。先ほど高橋さんが天然の学び舎という言葉を使われたが、まちづくりも、自然とか、風土から教わって、それに応えるようなやり方をしていかないといけないと思う。」(蘆田さん)

松之山の雪。その圧倒的な個性がこれからのまちづくりには役に立つと、蘆田さんは考えている。

「これから日本はどんどん人口が減っていって、まちや集落が消えていく。その中でも残っていくのは、そういうキャラクターが強いところなんじゃないかと。そういう意味で松之山の気候風土の大変さは、良さに変わっていく可能性があるんじゃないかと思う。」(蘆田さん)

フジノさんは、ブランディングの一環として「松之山ストーリーズ」というウェブサイトを運営し、そこに掲載するために様々なインタビューを行っている。取材対象は、いまの松之山に至るまで様々な取り組みをされてきた人たち。お話を伺っていて、つくづく感じたことがあるという。

「松之山の人たちは転機の度に、時代に流されない選択をされてきたということを感じている。ちゃんと立ち止まって、地に足を付けて、松之山の本当の良さって何なんだろう、それを大事にしよう、と。そうした積み重ねの中に、今のまんまの取り組みも続いているのだと思う。そういった、ここにしかない良さというものを、本当にわかってくれる方々との関係を大事にしていくこと。それが、強みを活かすことになると思う。」(フジノさん)

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自治振興会の事務局を務める佐藤さんは、様々な事業にも関わっている。地域に活動的な事業者が多いことに感動しつつ、さらに松之山を元気にするためには「集える場」が必要ではないかと考えている。

「人口2千人ばかりの地域の中に、行動力、実践力、発信力のある方がものすごい比率でいらっしゃる。一方で私のように、松之山の生活っていいな、ここをもっともっと元気にするために何かしたいな、そんなふうに思っている移住者が点在している。そういった人たちが年に1回でも2回でも集って、繋がることができる場があったら楽しいなあ、と思っている。」(佐藤さん)

若い頃に上京し、帰郷して7年目という島田さん。今年、凌雲閣で長年活躍してきた料理長が引退されたのだそう。

「ここに戻ってきた頃から、料理長と一緒に山菜を採りをしてきた。もし自分がこのさき、料理長から教わってきたことを実践していかなかったら、料理長がやってきたことがすべて終わってしまう。それは松之山にとって、ひとつの財産を失ってしまうことになるのではないかと、とても強く思うようになった。松之山独自の知識や文化を伝えることができる方々は、これからどんどん少なくなっていってしまう。その中で、いかに自分たちの子供の世代に伝えていくか、ということは非常に重要だと思う。それが松之山の強みを活かすということにも繋がるのではないかな、と。」(島田さん)

みんなで考える松之山のデザイン

竹内さんと高橋さんは、ディスカッションの感想も交えながら発言した。

「普段当たり前だと思っている雪や温泉。それが強みなんだと改めて思った。」(竹内さん)

「松之山にはたくさんの強みがあることと、その強みを活かす中で人との繋がりがあるということがわかった。」(高橋さん)

高橋さんは「温泉街だけではなく、松之山全体が元気にするために」と続ける。

「松之山には温泉の他にも、歴史に残るものなど、いいものがたくさんある。それらをもっと発信したい。松之山は本当にいいところだと、いろんな人にわかってもらいたい。」

 

みんなで考える松之山のデザイン

最後に、景観整備とブランドデザインのこれからについて。蘆田さんは景観整備のビジョンとして「松之山温泉街とその周辺を歩けるような仕掛け」を考えているという。

「今は温泉通りだけでしかお客さんが動いていないと思うが、ちょっと山に上がれば、すごい風景が広がっているし、不動滝もすごくいいのに、まだ人との距離が遠い。今のままだと行きたいとは思えないようなところに、魅力のある何かを作ることで、行ってみようと思わせるきっかけにできる。」(蘆田さん)

また蘆田さんは中でも重要だと考えている場所がある。

「温泉街を入ってきて、カーブを曲がった先に鷹の湯があるが、あのあたりがすごく重要。もちろん宿泊される方だけではなく、ちょっとふらっと来られた方に温泉街の中へどんどん入っていただくためにも、大事なポイントだと思っている。」(蘆田さん)

みんなで考える松之山のデザイン

フジノさんは、自身が関わる「松之山ストーリーズ」についての展望を語る。

「インターネットというと、速報性とか、リアルタイムで繋がる感じとか、そういうことが比較的強調されているが、一方で、アーカイブとして情報をきちんとストックしておく、というような機能があると考えている。今想像しているのは、10年後、何か松之山の情報を調べようと思った時に、松之山の歴史や、暮らしや、あるいは人々の思いなどが、きちんと整理されてインターネット上に蓄積されているという、そんな状況。例えば、冊子などの紙に展開していくにしても、そういった情報があれば容易になる。」(フジノさん)

そして高橋さんの「松之山にはいいものがたくさんある」という発言を引き継ぎながら、

「今、観光というものは、地域の暮らしや歴史といったものから、切り離されがちだった。それらがもっともっと地続きになるような、そういう地域になるといいなあと思う。これから観光に対するニーズもそういう方向に向かっていくと思うので、この松之山ストーリーズが、そのためのひとつの資産になればと願っている。」(フジノさん)

 

パネルディスカッションの後には、会場からも声が上がった。学園の先生、地元商店の方、農家の方、それぞれの立場からアイデアや思いが溢れる。約1時間30分のディスカッションにとどまらず、その後の交流会でも活発な意見交換がなされる。立場や世代を越えて人と人とが共鳴する。きっとここから、新たな縁が未来へとつながっていく。

みんなで考える松之山のデザイン

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