年の瀬迫る、松之山温泉のある夜。しんしんと降る雪が山々や建物の屋根を覆っていく中、道路に雪は積もらない。温泉熱のエネルギーを利用した消雪パイプのおかげだ。

2017年度グッドデザイン賞を受賞したことを受けて、その報告を兼ねた会が2017年12月19日に催された。松之山温泉合同会社まんまのメンバー、デザイナー、地域の住民などが集い、前半に受賞報告、後半にパネルディスカッションが行われた。受賞を弾みにこれからの松之山地域全体のデザインを考えようという試みだ。

まずは景観整備計画を作成した建築家の蘆田暢人(株式会社蘆田暢人建築設計事務所/株式会社ENERGY MEET)さんが、受賞の経緯を紹介。

「街路樹を植えたり、街路灯を立てようと思っても、除雪車の邪魔になる。ベンチを置こうと思っても、雪に潰される」。

景観に配慮する余裕がなかった松之山温泉。そんな状況を変えたのが、温泉熱エネルギーを利用した消雪パイプの敷設だった。そこからはじまった景観整備とは。

 

みんなで考える松之山のデザイン
蘆田暢人さん

「温泉街ではそれまでにも様々な取り組みをされていた。しかし、外からお客様に来ていただくためには、旅館やお店の魅力だけでなく、まち全体が魅力的になっていく必要がある。では、それを一緒に考えてみようと。」(蘆田さん)

蘆田さんが松之山に初めて訪れたのは約4年前。津南在住のクリエイティブディレクター・フジノケンさん(株式会社4CYCLE)の招きで、松之山温泉の景観整備プロジェクトに参画することになった。蘆田さんの建築設計事務所は東京、出身は京都。これまで雪国には縁もゆかりもなかったという。

「松之山の人間ではない私には、雪国の大変さが実感としてあるわけではない。多分最初、みなさんは私のことを、東京から来て雪のこともわからない人間が…なんて思ってらっしゃったかもしれない。しかし私がやってきた建築やまちづくりの経験を活かし、雪を知らないからこそできる見方でいろんなアイデアを出して、それを松之山のみなさんと一緒にぐるぐると回しながら、いろんな形ができていったらいいなと考えて、参画させていただいた。」

 

みんなで考える松之山のデザイン

グッドデザイン賞を受賞した「松之山温泉景観整備計画」。どこが審査委員の心に響いたのだろうか。蘆田さんは「どちらかというと、松之山のみなさんの全体の活動に対して、賞をいただいたのだと思っている」と語る。

「みなさんご存知のように、昔の温泉街の道には雪が積もっていて、除雪車も通っていた。最初にみなさんから伺ったのは、冬に雪があるから、まちの中に何もつくれないということ。街路樹を植えたり、街路灯を立てようと思っても、除雪車の邪魔になる。ベンチを置こうと思っても、雪に潰される。そういう状況。まちを綺麗したくても、その術がなかったのが、以前の松之山の実情だったかと思う。それが、温泉バイナリー発電の実証実験がきっかけになって、みなさんもご存知の、消雪パイプが敷かれた。雪が積もらないということから、いろんな可能性があるんじゃないか、そういうふうに、みなさんの心も変化したんじゃないかと思う。そこからみなさんと、温泉街の景観というものを考えていった。」(蘆田さん)

 

プロジェクトはまず、目標となるまちの全体像・ロードマップをつくることからはじまった。

「ワークショップを何度も行い、みなさんと議論を進めながら、新しいまちの画を描いていった。平面図に、こういうものがあったらいいな、というものをいろいろ詰め込んだ。この段階ではできる確証はひとつもなかったし、予定もなかったが、これを最初に共有したことで、目標ができた。機会があればネタ帳として使い、おかげで4年間トントン拍子にいろんなプロジェクトを進めることができた。」(蘆田さん)

消雪施設建屋
消雪施設建屋(2015年5月完成)

2015年5月、まず最初に完成したのが消雪施設建屋。周りを覆っている越後杉の板は、雪囲いがモチーフとなっている。「雪囲いはこの地域のひとつの特色、ひとつの景色だと思った。」という蘆田さん。

「はじめ、雪囲いを前面に張ったらどうか、という提案をした。しかし、雪囲いが夏もあるという光景は、雪国の人間から見たらずぼらの象徴なんじゃないか、という意見もいただいて。通常雪囲いは横にわたすところを縦にして、材料のサイズとか間隔も、プロポーションも普段とは違う見え方になるように、いろいろ調整していった。そうやって、わかっている人は見えるけれども、ぱっと見は雪囲いに見えないような、そんな小屋ができた。」(蘆田さん)

街路灯
街路灯(2015年12月完成)

雪が積もらないように工夫がされた街路灯(2015年12月完成)もデザインした。温泉街景観の目標のひとつとして温泉街の電線の地中化もあるが、街路灯にはその下準備もしてあるとのこと。他にも、コミュニティセンター「地炉」、松之山温泉里山ビジターセンターの改修が完了している。

 

みんなで考える松之山のデザイン

「まちづくりとしては考えられないようなスピードで成果が出た」という蘆田さん。しかしプロジェクトはまだ道なかば。次のステップも考えている。

「アイデアベースではあるが、木の雪囲いにも松之山独自の形があってもいいんじゃないかとか、その他にも鷹の湯の向かいのポケットパークなども考えている。大きい事業になるので一度にすべてはできないが、今回の授賞をきっかけにして、さらなる加速をしていきたい。周囲からの注目も増えていくので、それも糧にして、ひとつひとつ、みなさんと進められればいいなと思っている。」(蘆田さん)

みんなで考える松之山のデザイン

 

蘆田さんからの受賞報告を引き継いで、パネルディスカッションが行われた。その様子は後編で。