2017年から小中一貫校として誕生した「まつのやま学園」。豊かな自然のもと、地域の人たちの協力によって、田植えや稲刈り、ヤギの飼育や地元での職場体験など、この地域でしか学べない全人的教育が行われている。さらに2022年度からは親元を離れて生活して学校に通うことも可能な「雪里留学」も始まった。自然と人と暮らしを体感し学ぶ──松之山でしかできない希少な「学びの場」をレポート!

2017年度より小中一貫校として誕生した「まつのやま学園」。通常科目だけでなく、地域の自然と歴史、生活を学ぶ全人的な教育が特徴だ (写真提供/まつのやま学園)

全人的教育を実現するまつのやま学園

魚沼の山間にある松之山地域も、他の地域と同様に過疎化が進んでいる。少子高齢化の時代、過疎化はまっさきに子どもの数の減少に現れる。
「地元の人たちの希望もあり、2017年度より、松之山小学校と中学校が一貫校となった『まつのやま学園』が誕生しました。現在1年生から9年生まで、84人の児童生徒が学んでいます」
と、十日町市教育委員会の細木久成課長は話す。

一貫校でなければ、おそらくそれぞれが児童生徒数の減少で、活気を失っていたに違いない。このまま地域の子どもの数が減ってしまえば、最悪の場合、他の地域の小学校、中学校との統廃合もあり得る。小中校が一緒になることで学生数を確保し、松之山に学校を存続させたいという、地域の人たちの切実な願いがあった。

細木さんは、「このような経緯で生まれた『まつのやま学園』だけに、教育カリキュラムやイベントなど、保護者の方々はもちろん地域の人たちがより積極的に協力してくれています。まさに地域密着型の学校という点に大きな特色があります」と力を込める。

さらに学区制を取らず、「特認校」となったことも大きい。十日町市内の他の学区から通う学区外就学や、他の市や県から通う区域外就学などが可能となった。
「2022年からは新たに『雪里留学』と名付け、親元を離れ「藤倉ハウス」という施設で寝泊まりしながら学校に通うことができる体制も整いました」(細木課長)

現在、雪里留学を含め、2023年3月から4月にかけて転入した児童生徒は6名いるという。そのうち4名は千葉県や神奈川県から松之山に移住した家族の子どもたち。2名が市内の別の学区からだという。
課題先進地域としてのハンデを、むしろ強みとして生かす「まつのやま学園」。自然と文化、地域に密着した松之山ならではのユニークな教育の現場をレポートしてみた。

藤倉ハウスには5人が居住できる部屋と共有スペースが完備され、小学5年生から中学3年生までが入居できる

一貫校だからこその強みとは?

松之山の中心地点にある十日町市役所松之山支所のある十字路から、大棟山美術博物館へ向かって坂を上がり、左にカーブしてしばらく行くと右手に大きなコンクリート造りの建物が見えてくる。1987年に小学校の校舎として建てられ、2015年に中学校部分が増築された。時間的には放課後だが、子どもたちの明るい声がどこからともなく聞こえてくる。

「最初にこの学校に来た先生は、やっぱり戸惑うかもしれませんね」と笑いながら話すのは、まつのやま学園の髙橋雅彦学園長だ。「小中一貫校の併設型で、それこそ1年生から9年生まで一緒です。職員室も小学校と中学校の先生が一緒ですから、初めての環境に最初はびっくりするようです。でも、すぐに慣れてこの学校の良さや面白さがわかってもらえるようですね」

通常、小学校の教員は担任になると全科目を基本的には1人で受け持つ。まつのやま学園では、中学部の教員がその担当科目を小学部の児童に教える「乗り入れ授業」があるという。「小学部の教員は時間的に余裕ができ、空き時間に学年だよりを作ったり、放課後に部活指導に加わったりできます」と、髙橋学園長は一貫校ならではのメリットを話す。

「小学校と中学校の教育は自ずと違ったものです。本来は互いの仕事が見えませんから、相互理解することが難しい。乗り入れ授業を行うことで中学部の教員が小学部の教員の苦労を知ることで、中学での授業の大変な参考になるということがあります。また小学部の教員も中学部の教員の専門的な授業の教え方が参考になるそうです」(髙橋学園長)

この乗り入れ授業は5・6年生が中心だが、児童にとっても小学部の先生とは違う専門的な授業に「楽しい」「分かりやすい」という声が多く、児童の学習意欲の向上につながっていると髙橋学園長は胸を張る。まさに一貫校ならではの教育的なメリットがあるわけだ。

また、児童生徒の間の交流も通常の学校にはないものだと髙橋学園長は指摘する。「本来は小学生と中学生は別々の校舎で交流はありません。うちは併設の一貫校なので両者の交流があるのが特徴です。中学3年生にしたら小学1年生は下級生というよりもかわいい子どもたちです。彼らが小学生の低学年の子どもたちの面倒を見てくれるので、先生たちも助かっています」

ちなみに通常の学制は小学部が6年制で中学部が3年制となっているが、まつのやま学園では小学部の1年生から4年生の4年間を「人間としての基礎を培う過程」として「ホップ期」としている。そして5年生と6年生、そして中学1年生までの3年間を「思考力を高める過程」とする「ステップ期」、中学2年生から3年生の2年間を「社会との関係を明らかにする過程」として「ジャンプ期」として分けている。

このように、1年生から9年生までを4・3・2制に分けることで、子どもの成長と学ぶべきテーマをより実際的、実践的に結びつけることができる。「これまでの6・3制ではなかなか実現しにくい教育が、一貫校の4・3・2制ならできると自負しています」(髙橋学園長)

今年も新入生が入学した。小学1年生から中学3年生まで、幅広い学年の児童生徒が一堂に学ぶことで、児童と生徒のつながりはより深いものになる(写真提供/まつのやま学園)

地域の自然や人々、文化との深いつながりの中での学び

地域の自然、暮らし、人々とのつながりが深いのも同学園の魅力の一つだ。本来の教科だけでなく、山菜採りや野菜作り、田植えや稲刈り、ヤギなどの動物の飼育、美人林の清掃活動や外来種の駆除活動、地域の農園やキャンプ場、食堂や旅館などの仕事を手伝う職場体験など、松之山の地ならではの学びと体験の教育メニューが、年間を通じて目白押しだ。

これらのカリキュラムを作るに当たって、地域の人びとの協力はとても大きいと前出の細木課長は強調する。
「年度初めに今年はどんな活動が可能か、地域の人と先生たちが一緒になって企画します。毎年定番になっているものも多く、むしろ教員より、ずっと継続的に活動している地域の人たちの方が詳しい。地域の人たちの協力がなければ成り立たない教育だと言えます」

十日町教育委員会学校教育課の藤田剛主事はじつは髙橋学園長の前の学園長だった。
「地域の人たちが協力していただけるので、子どもたちは恵まれていると思います。例えばスキー授業も地元の人たちが指導してくれます。スキーが終わると地元の松之山温泉の旅館のバスが迎えに来て、温泉に浸かって帰る。松之山でなければ体験できないことばかりで、子どもたちも地域の人たちに対して感謝の気持ち、恩返しをしたいという気持ちが芽生える。それが地域愛につながっていくのだと思います」

まつのやま学園では地元の人から提供されたヤギを子どもたちが大切に飼っている(写真提供/まつのやま学園)

毎年の職業体験では、高齢者施設などで地元の人たちの仕事の現場を体験する(写真提供/まつのやま学園)

7月5日から7日の3日間にわたって行われた8年生の職場体験は、7人の生徒が松之山保育園や大厳寺高原キャンプ場、滝沢農園や食堂の山愛など7か所でそれぞれ仕事を手伝った。それぞれの職場の仕事を体験することで、ジャンプ期のテーマである社会とのつながりを学ぶことができる。

髙橋学園長もこの地域ならではの恵みを強調する。「春になると保護者や地域の人たちと山菜採りに出かけます。午前中に山の中でゼンマイやワラビ、ウドやコゴミなどをたくさん採り、それを学校で地元の人たちと一緒に処理して、午後に販売します。とにかくおいしい。この地域の文化を実体験として体感できるのは、地元の人たちの温かい協力と、この松之山の豊かな自然があってこそだと思います」

秋に行われた学校田の稲刈り。地域の生活と暮らしを体験し、地域で生きる大人たちと交流する。都会の学校ではできない貴重な体験だ(写真提供/まつのやま学園)

藤倉ハウスができて、いよいよ留学生の受け入れ態勢が整った!

特認校として学区制限のないまつのやま学園だが、2022年に「雪里留学制度」が整ったことで、より幅広い受け入れ態勢が整った。その目玉が「藤倉ハウス」だ。親元から離れて寮で共同生活をしながら、まつのやま学園に通う。学園から少し距離が離れているが、毎日路線バスの使用が可能だ。

入居資格は十日町市区域外就学制度を利用していて、まつのやま学園に通学する小学5年生から中学3年生までの児童生徒であること。自分自身で寮生活ができ管理人や他の入居者と協力して生活できること。心身共に健康であること。

十日町市役所松之山支所の髙橋広助さんが藤倉ハウスに案内してくれた。
「木造2階建てで、個室が5部屋に大型のキッチンと食堂を兼ねたコミュニティルーム、交流室などがあります。個室は大体6畳くらいの大きさで、ベッドと机とイスが付いています」
リフォームした建物はきれいで、どの部屋も窓が大きく光が入り込み明るい。この空間なら特に不自由することなく生活が出来そうだ。

入居時にかかる入寮費は3万円。月額の利用料は7万5000円。この利用料の中には個室の利用料の他に、寮で提供される朝晩の食費、電気・ガス・水道や暖房などの光熱費、施設の維持管理費、共用部分の利用料と消耗品(石鹸やトイレットペーパーなど)がすべて含まれている。

「共同生活で社会性を身につけることができるとともに、個人のプライベートも確保できるようになっています」と高橋広助さんは説明する。
2022年に最初の募集を行ったが、残念ながらまだ入居者はいない。「さすがに小学校5年生から中学生だと、親元を離れてとなるとハードルが高いのでしょう。ただ、少しでも雪里留学の良さ、藤倉ハウスの良さを知ってもらうために、実際に施設を使ってもらうモニターツアーなども行っています」と髙橋広助さんは話す。

一部屋6畳くらいの広さで、ベッドと机といすが常設されている。管理人も常駐している

食堂などの共有スペースも充実している

お受験とは正反対の真に豊かな教育とは?

まつのやま学園の校長室には、休み時間になると子どもたちが頻繁に遊びに来るという。
「ルービックキューブやパズルをして遊んでいます。勉強も大切ですが、遊びを通じていろんなことを学びます。大人も遊びを通じて子どもと一緒になることができる。子どもたちの上達の速さには驚きます。中には1分もかからずに6面揃える子どももいますよ」と、髙橋学園長は目を細める。

ソファーにはかわいらしいクッションが置かれている。「肌触りがいいものを子どもたちは喜ぶんです。そういう感覚的なところも大事にしたい」と髙橋学園長。子どもたちが喜ぶぬいぐるみやイラストなども豊富にそろっている。

受験戦争の中にどっぷりと浸る都会の学校教育とは根本的に違う。それがまつのやま学園の全人教育の特色であり強みだろう。ある意味のんびりしたところはあるが、それだけに個性を伸ばす教育でもある。
「特に2022年度の子どもたちの活躍はすばらしかったです。アルペンスキー競技やクロカンスキー競技の県大会で9年生の男子と女子がそれぞれ優勝しました。また、6年生の女子が県の『いきいきわくわく科学賞』で一番の県知事賞を受賞しています」と髙橋学園長は胸を張る。
先生たちの取り組み、地域の人たちの協力と温かいまなざし、そして豊かな自然環境……。通常の教科だけでなく、実体験として様々なことを学ぶことができるまつのやま学園の児童生徒たち。
お受験に血眼になり子どもの頃から学校と塾と家を往復し、テストの1点に狂喜したり落胆する都会の子どもたちと、どちらが豊かな学びを得るだろうか? 

まつのやま学園の教育の現場を知るにつけ、本当に必要な教育とは何かを深く考えさせられる。学校を訪れた時に子どもたちが屈託なく「こんにちは!」、帰る際には「さようなら!」と大きな声をかけてくれる。輝くような瞳と明るい表情が、すべてを物語っているようだ。

まつのやま学園の特徴を語る髙橋雅彦学園長。ソファーには子どもたちが校長室を訪れやすいように、かわいらしいクッションがおかれている。