「半年もの間、雪が残っているよ。」

—— 十日町市を豪雪地帯として表現する、最も驚くべき言葉をそこかしこで聞くのが、松之山の「常識」である。

一年の半分もの間、残雪があるのが十日町市の特徴だが、松之山は市内の中でも特段、雪深い地域だ。言いかえれば自然とともに、姿かたちが大きく変わる、自然との共同体でもある。

厳しい冬の寒さ。しんしんと積もる雪。
「生きるための知恵」を試行錯誤してきた先人たちは、春に採取される「ゼンマイ」「ワラビ」などの山菜の食べ方を覚え、雪解けまでの食料保存の知恵として、雪国の生活を支えている。

そして、「生きるための知恵」は「現代」へと受け継がれ、冬を乗り超えるよろこびを創った。それが、松之山で毎年開催される「山菜採りツアー」だ。

季節を五感で追うことを伝える、山を知り尽くす達人たち

都会で暮らしていると、「旬」を超えて手に入る野菜が数多くあり「この時期を逃すと手に入れられないもの」という尊さを、忘れがちになってしまう。

そんな自然や「旬」の尊さを「楽しみながら」都会の人にも伝えたいと、松之山の「山の達人」ふたりを中心に「合同会社まんま」が毎年開催しているのが、「山菜」を現地で採って、実際に採れた山菜を料理して味わうツアーである。


写真左手 小堺眞一さん 写真右手 柳一成さん

柳さん「僕の昔からの都会の友人と、毎年山菜ツアーを開催していて、しんちゃん(小堺眞一さん)と一緒に、松之山で山菜を採れる場所を実際に案内しているんだ。友人が連れてくるメンバーは料理クラブのメンバーで、顔なじみなんだよ。」


松之山についてお話しをする柳さん

うれしそうに話す柳さんは、「松之山」ごと「自宅」であるかのように、松之山を愛し、大切な友人と、その友人たちが「山まるごとの自宅」で楽しんでもらえることを、心から待ちわびている様子。

「ほら、これがセリだよ。」

参加者を待っている間の数分で手いっぱいの、「セリ」を披露してくれた柳さん。
子どものような無邪気な笑顔で、宝探しを楽しんでいるようだった。


手いっぱいの山菜のセリ

一方小堺さんは、ツアーの参加者が来る前に、山菜採りに必要な道具を集めながら、待ち合わせ場所でいそいそと準備をしていた。

小堺さん「今年の雪解けは早かったから、だいぶ山を登るよ。雪がまだ残っているところがまだまだ採れる。“食べられる草”なら、どこにあるのかすぐにわかるよ。」

山菜が採れる場所は、素人目で見たらどこに何があって、どうやって道具を使って採るのかすらわからない。それを「どこにあるのか当たり前」という余裕は、長年松之山に暮らして培った賜物だと感じる。


山菜について話してくれる小堺さん

“食べられる草”を、一瞬で見つけるハンターに興味津々

達人ふたりの元に、参加者が集う。


地面に目を凝らしなら山菜を集めていく参加者

「どこに山菜があるのだろう?」キョロキョロと地面を目配せながら、緑をかき分け、
普段見ることのない木の生え際から、蔦の先までを目を凝らして見つめてみると、そこら中にある山菜に、参加者の方々は大興奮。

「ほら、これがウルイだよ。周りにもいくつか生えているでしょ。」何もなかったように見えた地面から、一瞬で見つける達人の目。


ウルイを採る柳さん


木の芽を見つける柳さん

子どもの頃、自然ではしゃいだあの頃のように、達人も、参加者も一様に「山の宝探し」を楽しむ。


慣れてきて、自ら山菜を採る参加者のようす

心地よい疲労を伴うと、次はお待ちかねの料理づくりへとうつる。
お腹はペコペコ。だが、その前にまず下ごしらえと、山菜を食べられるように、水洗い、皮むきも楽しむ。


参加者と一緒に採ってきた山菜


さまざまな種類の山菜が並ぶ


根曲がり竹の剥き方を教わる参加者

「根曲がり竹はどうやって料理するの?」
料理クラブの方々は、山菜の処理方法や料理方法にも興味津々だ。

「根曲がり竹はね、今日のお昼の味噌汁になるよ。だから、たくさん採っておいてよかったね。採れなかったら具なし味噌汁になっちゃうからね。」
お腹の音が鳴っても、こんなに楽しく料理できるなら、期待の音に変わっていく。


根曲がり竹、ワラビ、山ウド、ウルイが入った味噌汁

ていねいに「おもてなし」の準備がととのった会場は、「いただきます」に至るまでの深みと味わいを、より広げてくれる。
お米は、籾殻を燃料に使った「ヌカ釜」で炊く。ヌカ釜とは、モミガラを燃料にしたかまどのこと(「ぬか」とは籾殻のこと)。着火剤のスギからモミガラへと火が燃え移ると、一気に強火になる。炊飯の定石ともいえる「はじめチョロチョロなかパッパ」が自然と再現されるのだ。昔から伝わる元祖自動炊飯器とでも云おう。この方法なら、燃料代もかからなければ、手もかからない。そして、なにより、炊きあがりが見事で、一粒一粒がふっくらと膨らみ、上を向くように立ちあがる。見ためもピカピカ。電気釜やガス釜では到底真似できない。
地元本来の素材のうまみを引き出すために、古くから伝わる山里の知恵を最大限活かして工夫を施していく。


釜で炊くご飯

山を散策し、自分たちの手で採ってきた山菜が、天ぷらになり、味噌汁になり、鍋になり。現地で採ったものを、現地で仲間と料理して食べる。こんな贅沢なことがあるのだろうか。

「ごはん」を食べることの前にこんなにも楽しいことがある。食卓の裏側には、いつだって食材のストーリーがある。食材を堪能にするのに、体験にかなうものやっぱりないのだと、実感するひとときがここにあった。


山菜のてんぷらを揚げる


揚げたての山菜天ぷら


山菜のおつけもの

しみじみと食材のありがたみ、雪国の知恵を感じている間に、お待ちかねの合唱、「いただきます」が響く。


ありがたくご飯をいただく参加者の方


揚げたての山菜天ぷらを美味しそうに食べる


美味しそうに食べる

高級な料亭で食べる味とは違う。お母さんが作る料理の懐かしい味ともまた違う。
「今」生きていることを存分に感じられる、「旬」の味だ。

「山菜ツアー」は、春になると続々と各地域で実施されるが、松之山ならではの味が、ここにある。

柳さんの「おもてなし」。小堺さんの「山の知恵」。
そして「合同会社まんま」の方々の協力で、実現するこのツアーは、都会も、田舎も、年齢も、国籍も、すべてを超えて、山を楽しみ尽くすことを、教えてくれる「山菜ツアー」だった。