積雪3mを越える松之山温泉。雪をもとめて海外からのお客様も訪れるようになった現在からは想像もつきませんが、昭和60年代まで冬は陸の孤島といわれるような地域でした。夏には大勢の湯治客をお迎えしていましたが、冬季間は雪のために交通が途絶えてしまっていたのです。当時の冬の暮らしは不便この上ないものだったといいます。除雪が発達した近年でも、一晩で1mもの雪が積もった日は、翌朝に除雪車が来るまで身動きが取れないということもありました。松之山温泉の歴史は、雪との戦いの歴史でもあったのです。このような環境では、景観という観点など地域住民に生まれてこなかったのも当然でした。

そんな状況を変えたのが、環境省による温泉バイナリー発電の実証実験に端を発する一連のプロジェクトです。特に温泉熱を利用した消雪パイプが敷設されたことをきっかけにして、松之山温泉の景観整備がはじまりました。街の彩りを奪ってきた雪を新たに恵みとして捉え、雪との共存を形にしながら、この地域に今までできなかったまち並みをつくること。新しい温泉街の魅力を引き出すために、全体のデザインを行っています。現在進行形で進められている景観整備プロジェクト、その一端をご紹介します。

松之山温泉全体計画ワークショップ

2014年に温泉組合のメンバーと建築家、アートディレクターがワークショップを5回にわたり行い、松之山温泉の将来ビジョンを描きました。このときに計画したロードマップをもとに、現在4つのプロジェクトが完成しています。引き続きプロジェクトは進められていて、現在は道路の街路樹を計画中です。

コミュニティセンター「地炉」(2014年3月完成)

古民家を移築したコミュニティセンター。囲炉裏や温泉調理のできるキッチン、足湯、温泉フェイスミストなどを設けています。イベントなどに利用しているほか、一般開放もしていて来訪者の憩いの場にもなっています。バイナリー発電で余った温泉を屋根の融雪に利用しています。

消雪施設建屋(2015年5月完成)

道路の消雪パイプを稼働させるための機械を格納する小屋。熱交換器とストレーナーで温泉と河川水を熱交換し、道路に散水しています。建物全体はこの地域の雪囲いを参照した越後杉のルーバーで覆われています。建屋前のスペースは、今後ポケットパークを整備する予定。

街路灯(2015年12月完成)

街路灯をLED化する際に合わせてデザインした街路灯。雪切りとなるシンプルな形状で、華美な装飾を施さない、豪雪地域らしい質実剛健なデザインを採用しています。

松之山温泉里山ビジターセンター(2016年3月完成)

当初コンビニとして使われていた建物を改修して、来訪者のためのビジターセンターとして再整備しました。消雪施設建屋と同様、越後杉の縦ルーバーで覆っています。温泉街の統一的なデザイン要素として、このルーバーを今後も景観整備の軸にしていく計画です。

雪は宝物

環境省による温泉バイナリー発電の実証実験に端を発し、道路への消雪パイプの敷設、その機械を格納する建屋、古民家を移築したコミュニティセンター、ビジターセンターの整備、街路灯といったプロジェクトを、短い期間で次々と実現している松之山温泉。敵であった雪をこの地域の宝物と捉え直し、温泉という地域の資源をエネルギー、土木、建築、食にまでつなげて、豪雪地帯の温泉街でしか生まれない風景と文化を作り出しています。